事件番号:JP2024-0002
裁定
- 申立人:
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氏名(名称):大門実紀史
住所:東京都豊島区 ●(省略)● - 代理人:
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氏名(名称):弁護士 本田 伊孝
弁護士 青龍 美和子
弁護士 岸 朋弘
弁護士 本間 耕三 - 登録者:
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氏名(名称):明美 井高(Akemi Idaka)
住所:●(省略)● Egoda City, Kagawa Prefecture
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「DAIMON-MIKISHI.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「DAIMON-MIKISHI.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
(1)申立人は、日本共産党に所属し、 参議院議員を2022年8月まで21年務めてきた。 2009年以降、カジノ反対の政策を掲げて、 全国各地のカジノ誘致反対運動を励ましてきた。 申立人は、2022年7月に行われた参議院議員選挙で落選したが、 現在もカジノ誘致反対運動に取り組んでおり、 今後も政治活動を継続する意向である。
(2)申立人は、参議院議員として活動していた間、 申立人の氏名「大門実紀史」をローマ字で表記した「DAIMON MIKISHI」をからなる「DAIMON-MIKISHI.JP」を使用してホームページを開設し、 議員としての活動報告等を行っていた。 2022年8月、参議院議員の職を退いた申立人は、 自身が開設していたWEBサイトを閉鎖し、 合わせて本件ドメインにかかる登録を解除した。
(3)登録者は、2022年11月から2023年1月頃までの間に、 上記ドメイン名の登録を行い、同ドメイン名を使用して、 申立人になりすました偽のホームページを開設した(以下「本件ホームページ」という。)。
(4)本件ホームページは、申立人が使用していたドメイン名と同一の、 「DAIMON-MIKISHI.JP」のドメイン名を使用されていることに加え、 ページのタイトルも「日本共産党参議院議員 大門実紀史」とされている。 また、その表示内容も申立人のプロフィールや申立人が写し出された写真が掲載され、 さらに国会で申立人が行った質疑の内容も掲載されている。 そのうえ、本件ホームページの全てのページの最下部には、 「大門実紀史©2023 ALL RIGHTS RESERVED」と記載もあり、 これら本件ホームページの表示内容からすれば、 申立人が作成・管理するホームページであるかのような外形が作出されている。
(5)本件ホームページのトップ画面の「選択的夫婦別姓制度とは? メリットや日本で人気のブックメーカーも紹介します!」と表示された部分にはハイパーリンクが設定されており、 このリンクをクリックすると、 「選択的夫婦別姓制度とは?メリットやデメリットを紹介!」と題するページが表示される。 このページには、「選択的夫婦別姓制度に限らず、 他にも日本が遅れているサービスが多々あります。 たとえば、近年大ブームを巻き起こしている『オンラインカジノ』や『ブックメーカー』も日本国内では合法化されておらず、 日本国内で運営することは認められていません。 海外ではブックメーカーサイトを運営するための『ライセンス(運営許可証)』を政府が発行し、 合法的に運営を認めている国も多くあります。 海外の合法的なブックメーカーサイトを日本国内から利用しても違法となることはありませんが、 合法化されていない点は残念なポイントです。 ブックメーカーに興味のある方は、 海外で合法的に運営されている人気のブックメーカーに登録してみましょう。」 などと記載されている。 本件ホームページの表示内容からすれば、 本件ホームページを閲覧した者が、 それに続いて同ブックメーカーのホームページをも閲覧できるような構造となっており、 本件ホームページの訪問者が賭博に導かれるようなホームページ構造となっている。
(6)本件ホームページの表示内容により、 申立人がオンラインカジノを推奨しているように表現されており、 本件ホームページからは、 申立人のカジノ誘致反対の主張とは反対に、 申立人がオンラインカジノを推奨するために本件ホームページを作成し、 および、申立人がカジノを推奨すべきとの意見を表明しているとの事実が摘示されている。 そして、このような登録者の行為は、 元参議院議員である申立人からすると、 名誉棄損罪、偽計業務妨害罪に該当するものである。
(7)よって、「DAIMON-MIKISHI.JP」は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求している。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
5 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
JPドメイン名紛争処理方針の「商標その他の表示」には、 商標や商号のみならず、「人の業務に係る氏名」も含まれるところ、 「DAIMON-MIKISHI.JP」の「.JP」以外の部分は、 申立人の氏名を単にローマ字書きしたものにすぎず、 申立人の業務に係る氏名と同一又は極類似のものである。
政治家にとって氏名は、選挙、政治活動、その他の活動において、 商品やサービスについての商標以上に重要なものである。 また、申立人の氏名は国内でも多いとはいえず、 申立人が元国会議員であって知名度も高いため、 申立人の氏名との混同の可能性も高い。
以上の検討から、登録者のドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているといえる。
(2)権利または正当な利益
登録者は、 「DAIMON-MIKISHI.JP」に関する権利または正当な利益を有しているということについて何ら答弁していない。
また、登録者の登録情報は、実在しない登録名、住所、 電話番号及びファクシミリ番号等が記載されている。 すなわち、登録情報自体が虚偽のものである。
結論として、 登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているということの立証がない。
(3)不正の目的での登録または使用
登録者のドメイン名は、「DAIMON-MIKISHI.JP」であり、 このドメイン名は、 申立人が過去実際に使用していたドメイン名である。 この「DAIMON-MIKISHI」は、 申立人の氏名をローマ字読みしたものにすぎない。 また、申立人の氏名は国内でも多いとはいえず、 申立人が元国会議員であって知名度が大きいことも考慮すれば、 第三者が「DAIMON-MIKISHI.JP」をみれば、 申立人が当該ドメイン名を登録・使用しているものと混同する可能性が極めて大きい。
そして、登録者が本件ドメインを使用する目的は、 申立人の主張するカジノ誘致反対とは正反対の、 オンラインカジノの推奨であり、 ドメイン名登録を更新しなかったことを奇貨とした、 申立人であることを偽った悪質ななりすましであり、 申立人の名誉を棄損し、 偽計をもって申立人の業務を妨害するものである。
これらの事情を総合すると、 登録者による「DAIMON-MIKISHI.JP」の登録及び使用は、 不正の目的に基づくものということができる。
6 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「DAIMON-MIKISHI.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、 ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「DAIMON-MIKISHI.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2024年5月2日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 弁理士 西野 吉徳
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年2月26日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年3月7日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2024年3月7日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年3月7日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2024年3月8日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年3月12日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年3月12日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年3月12日)、 答弁書提出期限(2024年4月10日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、 登録者の公開連絡窓口住所に送付した通知は「当局区内の肩書きの町名・地名がありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年4月11日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2024年4月17日に弁理士 西野 吉徳を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年4月17日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年5月10日)を通知した。 パネルは、 2024年4月18日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2024年5月2日に審理を終了し、裁定を行った。